パーソナルジム訴訟から学ぶ“信頼を守る対応”──トレーナーが今すぐできる行動

パーソナルトレーナーの小林素明です。
日経新聞の朝刊(2025年11月16日 社会面)に、パーソナルジムの裁判事例が掲載されました。
見出しは、「個人指導 ケガの責任は パーソナルジム訴訟」。
記事を読んだ瞬間、胸がざわつきました。「ついにこの話題が一般紙の社会面に大きく報道されたか」と感じたからです。
パーソナルトレーニングは、マンツーマンゆえに信頼関係がすべてです。だからこそ、この事例は僕たちに多くのヒントを与えてくれます。
なぜ訴訟まで発展したのか

訴えたのは46歳の女性です。コロナ禍で体重増加を感じ、運動不足の解消を目的に入会。その際に約31万円を支払っています。
事故が起きたのは初回ではなく、すでに複数回通った後のレッスン。トレーニング中に異変を感じ、翌日に大腿部の激痛で救急搬送されています。
その後、女性はジムに緊急連絡。トレーナーは丁寧に対応したようです。
しかし、数日後から連絡が途絶えてしまった――ここが大きなズレの始まりでした。
最終的に裁判所は、「安全配慮義務違反とは言えない」と判断。
ケガの責任は認められなかったものの、女性がここまで行動を起こすに至った背景には、「対応への不信感」 があったと考えられます。
訴える側も裁判費用という大きな負担を背負います。
それでも動かざるを得ないほど、心の中に“解決されない思い”が残ったのでしょう。
何が問題だったのか:技術よりも“対応力”
記事の中で女性は、「準備運動をせずに筋トレを行った。安全への配慮が足りない。」と訴えています。
これは僕たちが常に向き合うべき指摘です。
・体調チェック
・ウォームアップ
・負荷設定
・動作の説明
・目的の共有
これらは、専門家として当然おさえておくべき項目です。
しかし今回、より深刻だったのは、連絡が途絶えたこと ではないかと感じます。
人は「無視された」と感じると、状況が悪化します。誤解が誤解を呼び、解決の糸口が消えていきます。
まさに、信頼関係が急激に崩れる瞬間です。
僕が20年前に学んだ“対応の原則”

20年ほど前、取引先の社長さんから言われた言葉があります。
「小林さん、会って話すと怒りやモヤモヤは半分になるんです。だから私は、何かあればすぐに飛んで行きます。これが責任者の務めです。」
僕はこの言葉をずっと大切にしてきました。そして、今も同じ考えです。
LINEや電話では、相手の表情が見えません。
文章は短くなり、誤解も生まれやすい。不安な時ほど、人は“対面での安心”を求めます。
だからこそ、トラブルの時ほど対面で向き合う。これは、ジムだけでなく、どんな業界にも共通する最優先の対応と考えています。
怪我はゼロにならない。しかし、トラブルは減らせる
パーソナルトレーニングでは、ケガを完全に防ぐことはできません。特にフリーウェイト指導では、どうしてもリスクがあります。
しかし、
「ケガ」=「トラブル」
とは限りません。
丁寧な説明、すぐに連絡を返す姿勢、対面でのフォロー… こうした行動がトラブルを大幅に軽減するものと考えます。
僕の経験でも、“きちんと話す時間をつくるだけで、解決へ向かう”というケースは数多くありました。
消費者事故調も危機感を感じています
記事にも触れられていましたが、消費者事故調はパーソナルジムの事故に危機感を持っています。
今後、業界全体で何らかのルールや注意喚起が出る可能性は高いでしょう。
だからこそ、僕たち指導者が「対応」を見直すタイミングは、まさに今です。
トレーナーが持つべき“対応の力”

今回の事例は、技術の話ではありません。トレーナーによる対応力の話です。
・丁寧な説明
・まめな連絡
・誠実な対応
・安心できるコミュニケーション
これらは、お客様が「この人に任せたい」と感じる大きな理由になります。
しかし、いくら信頼関係を構築していても、途中で対応が疎かになってしまうと、一気に信頼関係が崩壊します。
そのため、トレーナーはお客さんとの「ずっと変わらない対応力」が必要です。
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まとめ:行動すれば変わる
今回の日経の記事は、僕たちにトレーナーとって“行動のきっかけ”になります。
・安全の徹底
・丁寧な説明
・速い連絡
・対面での話し合い
今日できることは必ずあります。
しかしながら、トラブルをゼロにすることは困難です。トレーニング指導中には、「しっかりサポートしています」と分かるような姿勢が必要です。
そのためには、トレーニング中には姿勢保持のためのサポートを行っているか、血圧や脈拍など基本的な体調チェックができているか、ジム内は清潔か、など細かな配慮が必要不可欠と考えます。
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この記事を書いた人


小林素明 (パーソナルトレーナー)
テレビ番組「ちちんぷいぷい」「大阪ほんわかテレビ」「ten」などに多数出演し、メディアからも注目されるパーソナルトレーナー。30年以上の指導経験と健康運動指導士の資格を有し、1万レッスンを超えるパーソナルトレーニング指導の実績。特に40代からシニア世代向けの「加齢に負けない」トレーニングに定評があり、親切で丁寧な指導が評価されている。
医療機関との連携を通じて、安全で効果的なトレーニング法を研究し、病院や企業での腰痛予防に関する講演では受講者の98%から「分かりやすかった」と高評価を得る。また、パーソナルトレーナー養成講座の講師としても豊富な実績を誇り、多くのトレーナーの育成に貢献しています。
