トレーナー必見:柔軟性チェックと指導法の実践ガイド
パーソナルトレーナーの小林素明です。
柔軟性の低下は、動作の制限やトレーニング効果の低下だけでなく、腰痛や膝痛、肩こりの原因にもつながります。そのため、トレーニング指導において柔軟性を高めることは非常に重要です。
今回の記事では、明日から現場で使える柔軟性の指導法を具体的にお伝えします。簡単かつ効果的な方法を取り入れ、指導の幅を広げてみませんか?
どこまで柔軟性を高めれば良いのか?
かつて流行した「180度開脚ストレッチ」。痩せる、足が細くなるなどの効果が謳われましたが、トレーナーとしてどう考えるべきでしょうか?
股関節の外転角度は、一般的に片脚で約45度が基準です。両脚では90度が理想的とされています。180度開脚が可能な理由は、次の3つに分けられます。
- 関節の緩さ(先天性)
一部の人々は、関節が柔軟であるため、自然に広い可動域を持っています。これは生まれつきの特性で、無理に伸ばすことなく広がります。 - 不正確なフォーム
実際には180度開脚していない場合があります。股関節が内旋しているなど、外転の角度が不正確であることが多いです。 - 過度な可動域の拡大
関節を無理に広げることで靭帯や関節唇が損傷するリスクがあり、関節可動域を広げることが体に負担をかけることになります。
180度開脚は、靱帯や関節唇の損傷のリスクがあり、股関節に過大な負担をかけます。これほどの負担をかける方法は、お客さんには絶対に勧めることはできません。正しい知識のもとで、柔軟性の指導を行うことが求められます。
適切な関節可動域を知る方法として、日本リハビリテーション医学会のガイドライン「関節可動域表示ならびに測定法」が参考になります。
どこまでが適正な柔軟性か?
適正な柔軟性を理解することは、トレーニング指導において非常に重要です。まず知っておきたいのは、「自動的関節可動域」と「他動的関節可動域」の違いです。
自動的関節可動域は自分の意思で動かせる範囲で、通常は「関節可動域表示ならびに測定法」に基づいて評価されます。一方、他動的関節可動域は他者のサポートで広げられる範囲で、ペアストレッチでよく使われる方法です。
ただし、現場での指導では、すべてを正確に測定するのは難しいため、臨機応変に対応する必要があります。
例えば、スクワット中に踵が浮く場合、足首の硬さが原因で膝に負担をかけている可能性があります。このようなシチュエーションで足首の柔軟性をチェックし、足関節のストレッチ指導することが大切です。
適正な柔軟性は、関節に過度な負担をかけず、自然に動かせる範囲を指します。一般的に、女性は男性よりも柔軟性が高いです。最大の理由は、男性より筋肉量が少ないためです。トレーニング計画では、柔軟性向上よりも筋力強化を重視するべきです。
適正な柔軟性のチェック方法
実際に現場で使える柔軟性チェックをご紹介します。基本的には、お客様自身に関節の可動域(自動的関節可動域)を確認してもらい、その結果を基に「硬いですね」「適正です」「柔らかいです」と評価します。
時には、トレーナーがサポートして他動的関節可動域をチェックする場合もあります。
背中~肩(広背筋など)の柔軟性チェック
広背筋は肩周りの柔軟性に直結しており、肩こりや体の歪みに関連が深いです。
また、広背筋は胸腰筋膜を介して大臀筋と繋がり、対角線上にある筋肉として腰痛を引き起こすこともあります。実際、腰痛や肩こりを訴える人の多くに広背筋の硬さが見られることが多いです。
広背筋の硬さは、大臀筋の弱化につながります。そのため、いくら大臀筋の強化をしても、思うような効果が期待できないことになります。
柔軟性のチェック方法
やり方: 仰向けで腰を反らさず、両手を耳の横に伸ばして確認します。
評価法: 床に腕がついていれば適切な柔軟性です。腕が床から浮いていると柔軟性が不足しています。
太もも裏(ハムストリングス)の柔軟性チェック
ハムストリングスの硬さは、腰、膝、そして姿勢に大きな影響を与えます。ハムストリングスは骨盤の坐骨結節に付着しており、硬くなると骨盤が後ろに引っ張られて(骨盤後傾)背中や腰が丸くなり、腰に負担がかかります。
さらに、ハムストリングスが硬いと膝が伸びにくくなり、膝関節を守る大腿四頭筋の筋力が低下します。これにより、膝痛を引き起こす可能性が高くなります。
柔軟性のチェック方法
やり方: 仰向けで片脚を曲げたまま、反対の脚を伸ばして体に引き寄せます。このとき曲げた脚が浮かないようにしてください。
評価法: 脚を引き寄せられることができれば適切な柔軟性です。脚を引き寄せることができない、膝が曲がる場合は柔軟性が不足しています。
太もも付け根(腸腰筋)の柔軟性チェック
腸腰筋は腰椎に付着しており、硬くなると腰椎が引っ張られて反り腰姿勢を引き起こし、腰痛の原因になります。この姿勢を維持したままでトレーニングを行うと、腰痛が悪化することがあります。
腸腰筋に注目すべき重要な点は、座っている時間が長くなると、誰でも硬くなりやすいということです。座位では股関節が屈曲し、腸腰筋が短縮して硬くなります。筋肉は動かない状態が30分を超えると、柔軟性が低下する傾向があります。
デスクワークや長時間の車の運転では、腸腰筋が硬くなることがよくあります。例えば、高速道路のサービスエリアで見かける、背伸びをして体を反らす「体の前面のストレッチ」をしている人々がその良い例です。自然に腸腰筋や腹筋を伸ばしていることで、硬くなった筋肉をほぐすことが目的となっています。
柔軟性のチェック方法
やり方: 仰向けになり、両手で膝を抱え込みます。
評価法: 膝を抱えた際、両肩が床につき、反対側の脚がついていると適切な柔軟性です。反対側の脚が床から浮いていると、柔軟性が不足しています。反対側の脚も同様に行いましょう。
まとめ
代表的な柔軟性チェック法を紹介しましたが、もちろんこれだけでは不十分な場合も多く、追加でチェックが必要でしょう。
トレーナーとして大切なのは、柔軟性の「硬い」「適正」「柔らかい」の判定だけではなく、その部位ごとの分析です。お客さんに説明して納得してもらうことで、初めて効果的なトレーニング指導が行えます。なぜこのエクササイズが必要なのかをしっかりプレゼンテーションすることが、トレーナーの役割です。
そのためには、解剖学の基本的な知識、スポーツ障害、腰痛や肩こりが起こる原因などの知識も必要となります。これらの基礎知識やパーソナル指導法について学びたい方は、パーソナルトレーナー養成講座、解剖学の基礎知識講座もぜひご検討くださいませ。