自重トレーニング指導者養成講座「筋力の左右差がある場合、弱い側をさらに鍛えた方が良いのか?」
パーソナルトレーナーの小林素明です。
自重トレーニング指導者養成講座で「筋力の左右差がある場合、弱い側をさらに鍛えた方が良いのか?」というご質問がありました。
結論を言いますと、筋力不足の原因を探り、基本の強化手順に沿って正しいフォームでトレーニングを行うことです。正しいフォームは、左右の筋力バランスを整えることができます。
では、筋力アンバランス解決のための導き方を紹介します。
なぜ左右の筋力差が起こっているのか?
まず指導者が考えるべきことは、なぜ筋力差があるのかの原因追求です。なぜならば、単純にトレーニング量を増やすことで逆効果になることがあるからです。
筋力差の左右差が考えられる、よくある原因をあげてみます。
- 拮抗筋の柔軟性不足
- 既往歴がある
- 姿勢不良がある
1 柔軟性が不足している
強化する筋の反対側にある「拮抗筋」の柔軟性不足は、筋力低下を招きます。中臀筋を例に挙げて紹介します。
中臀筋の筋収縮(縮む) → 内転筋は伸展(伸びる)
中臀筋の筋収縮(外転)には、内転筋の柔軟性が必要です。もし、慢性的に内転筋が硬くなっていると、上の図のように外転する角度(関節可動域)が狭くなり、中臀筋の筋力不足を招きます。
筋力は、収縮と伸展がセットとしっかりと覚えておきましょう。柔軟ストレッチは、筋力アップに貢献します。
初回トレーニングで、柔軟性チェックをする理由はここにあります。
2 既往歴がある
筋力不足の背景にあるものが、現在を含め過去の怪我、疾患にある場合があります。痛みを伴えば、関節を動かさない期間が生まれ、筋力の弱化となります。また、期間が長くなれば、筋力低下も大きくなります。
例)膝の痛み → 大腿四頭筋の筋力低下を招く
僕が指導しているお客さんで、変形性股関節症(片側)の方がいらっしゃいます。股関節の運動制限があり、左右で同じ動きができません。無理に左右の筋力を合わせようとすると、股関節を悪化させる可能性がありますので注意が必要です。医療機関と連携をとりながら指導をすすめています。
他、椎間板ヘルニア(圧迫されている神経に繋がる筋肉は弱化傾向)、変形性膝関節症なども要注意です。初回指導のカウンセリングがいかに重要であるかが、ここで分かりますね。
3 姿勢不良がある
よくある姿勢不良としては、体の捻りです。左右の腹斜筋の筋肉バランスが崩れることで、体が捻れます。(左右の肩の高さが異なる)
この姿勢不良は、座っている時間が長い、机に肘をつく、野球のピッチャーを長年していたなどの偏った姿勢、スポーツ動作によって起こりやすくなります。
弱化している筋を推測するためにも姿勢評価は必要です。
このように左右の筋力差には、いつくかの原因が考えられます。1つは現状把握と過去に遡ることです。次に弱化している筋肉を強化するための基本的な手順を紹介します。
弱化している筋力強化手順
中臀筋の強化法を例に挙げます。
筋力強化の前には、少なくとも鍛える筋「中臀筋」、拮抗筋の「内転筋」の柔軟ストレッチが必要です。(上の写真)準備運動で必要な関節可動域の確保です。
強化法
弱化している筋肉は、アイソメトリックトレーニング→アイソトニックトレーニングへとステップアップすることがスムーズな筋力アップが可能になります。
用語解説
アイソメトリック:筋肉の長さを変えずに筋収縮する(静的なトレーニング)
アイソトニック:筋肉の収縮、伸展を一定のテンポで行う(一般的)
強化手順
アイソメトリックトレーニング
アイソメトリックトレーニング 関節角度を変えながら
アイソトニックトレーニング
単関節のトレーニングから、多関節、全身トレーニングへと移行
筋力レベルに応じて、開始するSTEPを決定します。
STEP1 アイソメトリックトレーニング
股関節を外転位で静止するトレーニング。代償作用のチェックも行う
7秒間の2セット
STEP2 アイソメトリックトレーニング2
外転位の角度を変えて、アイソメトリックトレーニング。
STEP3 アイソトニックトレーニング
正しいフォームで関節可動域を使った、動的なトレーニングとなります。
外転トレーニング
体の横から、股関節の外転を行うトレーニング。最大45度の角度となります。
回数:15回
チューブ負荷外転トレーニング
チューブを使い負荷をかけて外転トレーニングを行います。
サイドプランク&外転トレーニング
ここからは、中臀筋のみを強化する方法からレベルアップし、複合的なトレーニングへと移行します。
サイドプランクで外転を行うことで、体幹強化も可能にします。
ニーアップトレーニング
ニーアップでの骨盤の安定化には、中臀筋が大きな役割をしています。常にフォームをチェックしましょう。
回数:10回
弱化している側のトレーニング量を増やすべきか?
弱化している側を鍛えたい、という気持ちはお客さんも感じていることでしょう。しかし、単に弱い側の回数を増やすことは要注意です。「中臀筋」の左右差を例に挙げて紹介します。【自重トレーニング】
例)中臀筋を鍛える外転トレーニングを行なったとき
・「右」は10回で限界 ←弱い側
・「左」は15回で限界
▼15回のトレーニングでの推定運動強度
・「右」100%超 ←11回目からは代償動作、可動域を小さくする
・「左」100%
と、左右同じ回数を行えば、弱い側(右)は、反対側(左)よりも運動強度が高くなります。
限界を超えて回数をこなす場合、中臀筋だけでは耐えきれず、他の筋肉を使って代償動作、もしくは可動域を小さくしてトレーニングを行います。正しいトレーニングではありません。
大切なことは正しいフォーム、可動域で行うこと
弱化筋の強化の時には、正しいフォームを最優先することです。
また回数に捉われず、運動強度で指導すること。限界の回数まで行えば、運動強度100%となります。例えば、「現在は、10回を目安に行なってください」と指導をしましょう。
その上で、強化期間として弱化している側のトレーニング(もしくは反対側より1セット増やす)という指導も良いでしょう。
指導現場で行う正しいフォームサポート法はこちらの記事に書いています。
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弱化筋の強化トレーニングの落とし穴とは?
弱化筋の強化トレーニングでの落とし穴、それは代償動作です。中臀筋トレーニングの代償動作として、骨盤挙上があります。このとき、腰方形筋が働くため、正しい中臀筋の筋力とは言えません。
代償動作を回避するためのトレーニングの工夫が必要です。上の写真は、代償動作を回避するために、骨盤の下にタオルを敷いています。
正しいフォームでの自重トレーニングは左右均等に負荷がかる
本来、代償動作がない正しいフォームで筋力トレーニングを行えば、左右均等に負荷がかかります。
正しいフォームで自重スクワットで行えば、両脚に均等な負荷がかかっています。しかし、代償動作(臀部が横にずれるなど)では、左に60%、右に40%など負荷のバランスが崩れます。
このように正しい動作は、左右均等に負荷をかけることになり、偏りのない筋力強化を実現します。ですので、自重トレーニング指導には「1にもフォーム、2にもフォーム」と言っても過言ではないでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか? 筋力の左右差は一括りにはできず、1つ1つの要因を検討することが必要です。多くの場合、硬くなっている部位の柔軟ストレッチ→筋力強化の流れがスムーズな指導となります。
筋力不足になっている背景を探ってみることで、トレーニング目標の近道となります。